たんぱく質は、筋肉などの体を作る材料となり、肉や魚、卵、乳製品といった食材を摂取することはきわめて重要だ。しかし、生まれつきの代謝異常により、これらのものを食べられない「フェニルケトン尿症」という難病がある。
8万人に1人
兵庫県の小学1年生、前田琴音さん(6)は、生後4日目で受けた 新生児マススクリーニング検査 で、血液中に含まれる「フェニルアラニン」という数値が高いと指摘された。たんぱく質に含まれる必須アミノ酸で、体内に蓄積すると精神の発達に障害が生じる。通常は酵素の働きで、「チロシン」という別のアミノ酸に変換される。
琴音ちゃんは、詳しい検査を受け、フェニルケトン尿症と診断された。「出産は順調だったので、まさかうちの子が健康面で異常が指摘されるとは思いませんでした。聞いたことのない病名で、インターネットで調べました」。母親の晴香さん(42)は当時を振り返る。
フェニルケトン尿症の赤ちゃんは、8万人に1人の割合で生まれると言われている。生涯にわたり食事で摂取するたんぱく質を抑え、フェニルアラニンを除去した治療用の粉ミルクを飲む必要がある。
琴音さんは、母乳と治療用ミルクを併用し、生後6か月で離乳食も始めた。
米やパン、麺にもたんぱく質
今の食事は野菜が中心だ。肉や魚、卵、乳製品は一切口にしない。米やパン、麺類にもたんぱく質が含まれているため、低たんぱくの製品を購入して食べている。ほかのアミノ酸が不足しないよう、治療用ミルクも毎日、欠かさず飲んでいる。
食費がかかることが悩みの一つだ。フェニルケトン尿症は、医療費助成が受けられる小児慢性特定疾病に指定されているが、食事は医療費としてみなされない。低たんぱく米などは、一般的な食材よりも値段が高い。晴香さんは「フェニルケトン尿症は、食事療法がメインです。こうしたケースに対して、少しでも助成が受けられればありがたい」と語る。
学校給食の相談は年中のころから
保育園は、病気に理解があり、特別な食事にも対応してくれる所を選んだ。また、園長からの提案で、年中のころから教育委員会を通じて、入学予定の小学校と給食の相談を始めた。その結果、給食で食べられるものは食べ、食べられないものは、自宅から弁当を持参することになった。パンの日は、低たんぱくのパンを持参し、給食室のレンジで温めてもらう。
琴音さんは今年4月、小学校に入学した。晴香さんは、事前に配られる給食の献立表をチェックし、毎日、弁当を作っている。例えば、ハヤシライスの日は、低たんぱく米を保温弁当箱に詰めて登校する。ハヤシライスの具は、肉を取り除いてよそってもらう。チキンカツの日は、ジャガイモで作ったコロッケを持参。親子丼の日は、代替卵で作った「具」と低たんぱく米を持って行く。弁当作りの際には、食材に含まれる栄養成分の量が分かるアプリを活用している。
治療用のミルクも持参し、ほかの子どもが牛乳を飲むのと同じように飲む。
「なるべく周りのお友達と同じもの、近いものを食べられるようにしてあげたいと思っています」と晴香さん。琴音さんは「給食の時間は楽しい」と話す。
弟は食事制限なし
琴音さんには4歳の弟がいる。弟はフェニルケトン尿症ではなく、一般的な食事を取っている。自宅では、通常メニューを作り、琴音さんは肉や魚を取り除いて食べている。晴香さんは、弟には、何でも食べてもらいたいという気持ちはあるが、「琴音のことを考えると、『あなたは何でも食べていいよ』とは言わないように気をつけています。食べていいよというのも、食べてはいけないというのもつらい」。常に葛藤がある。